2026年01月08日

小児におけるアレルギー血液検査の意義

 小児におけるアレルギー性鼻炎の発症には低年齢化の傾向があります。アレルギー性鼻炎(AR)にはアレルギー性皮膚疾患(アトピー性皮膚炎)が先行することが多く、また高率で気管支喘息を合併します。幼小児ではまずダニやハウスダスト(HD)に接することによる、通年性アレルギー性鼻炎が最初に現れ、その後、スギ花粉症など花粉による季節性アレルギー性鼻炎を起こすようになります。
 ARで問題になることは、適切な治療をタイミングよく行わないと滲出性中耳炎、副鼻腔炎、扁桃炎を合併する要因となり、長期的な治療が必要になることです。ARの治療薬として、抗アレルギー薬を処方される幼小児はとても多く、長期的に服用しているケースも少なくありません。しかし、血液検査でアレルゲンを広範囲に調べているケースは多くはありません。吸入アレルゲンだけでも、ダニ・HD、動物のフケ、昆虫、樹木花粉、イネ科花粉、キク科花粉、その他の雑草の花粉、真菌など検査すべき項目は多岐にわたります。
 さらに食物アレルゲンとして、穀物、豆、種子、木の実、芋、野菜、果物、卵、牛乳、肉、甲殻類、魚介類、寄生虫なども知りたいところです。食物アレルゲンは食物アレルギーばかりでなく、口腔粘膜のかゆみや腫れが出現する口腔アレルギー症候群(OAS)の診断にも有用です。アレルゲンを特定できれば、そのアレルゲンの除去や回避といったセルフケアを実施したり、スギ花粉症ならば初期療法、抗IgE抗体製剤、舌下免疫療法、手術などを選択できたりと治療の幅が広がります。また、ダニアレルギーやスギ花粉症に対する舌下免疫療法の導入時の重要な判断基準にもなります。これらの項目別のアレルゲン検査は血清中の特異的IgE抗体値を測定していますが、これらの数値はアレルギーの重症度を反映するものではないため、別にアレルギー体質が強さを判定する総IgE値を調べる必要があります。
 これまで、多くの施設ではアレルギー血液検査を外注で行い、結果が得られるのに1週間程度かかっていました。この状況を変えるために、当院ではこの度最新の検査機械を導入しました。この検査機械は指先ないし上肢の静脈から少量の血液を採取し、遠心分離(3分)後に15分の測定時間で45項目のアレルゲンと総IgE値を同時に調べ、当日結果を知ることができます。一般的なアレルギー治療からもう一歩踏み込んだ治療へ転換を図るために、受ける価値がある検査と考えます。検査費用は保険点数が1,680点なので3割負担で5,040円です。特に子ども医療費助成を受給している幼小児にはメリットが大きいので、保護者の方で子供さんのアレルギーを知りたいと考えていた方は、ご検討の上当院受診時に受付で検査希望と申し出てください。なお、このアレルギー血液検査は成人にも実施していますので、成人や高齢者にもおすすめします。
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2025年11月26日

ホモ・サピエンスはどこから?

 私たちが大きく人類をテーマにする時、ホモ・サピエンスというワードを使います。しかし、人類誕生の歴史をさかのぼると地球上には多くの”人類”が存在していました。約700万年前にチンパンジーの祖先と分岐した猿人が出現し、約200万年前に直立歩行が出来るようになった原人がアフリカに現れ、その後進化の末に約20万年前にホモ・サピエンスが誕生したとされています。ホモ・サピエンスはホモ属で最も新しいので新人と呼ばれますが、それ以前の原人(ホモ・エレクトス)から旧人(ホモ・ハイデルベルゲンシス、ネアンデルタール人)、新人へと進化してきました。その道程は分かりやすいものではなく、分断を含んだ複雑な系統樹にまとめられています。また複数のホモ属が同時期に生存していた証拠が発見され、お互いの関係性、つまり交雑があった事実について研究されています。今までの化石人類学では、発掘される化石人骨の少なさから進化理論は不確かであり、重要な化石の発見があると簡単に仮説が覆される弱点を持っていました。しかし近年、分子生物学的手法の導入により古代DNA研究がすすみ、理論的な補強が出来るようになってきました。
 <ミトコンドリアDNA>
 私たちの細胞には核DNAとは別に、細胞質にミトコンドリアDNAがあります。これは母親からそのまま受け継がれるので、この遺伝形式を逆にたどると祖先を一本道でたどることが出来ます。手法としては、粉砕した古代骨からDNAを抽出し、コロナでお馴染みのPCR法でDNA量を増幅して次世代シーケンサーでゲノムを調べます。現代人に対してミトコンドリアDNAの系統解析を行うと、人類の共通祖先のDNA配列(塩基配列)を持つアフリカ集団、そこから派生したヨーロッパ集団、アジア集団などのグループに分けられます。化石人類に対しては、世界各地の異なる年代の古人骨からDNAを抽出して、比較・分析することで人類の移動や交雑について確度の高い知見が得られるようになりました。
 <核DNA>
 ミトコンドリアDNAの解析は祖先をたどる有効な手段ですが、核DNAに比較してゲノム全体に占める割合は極めて低く、つまり情報量が少ないです。そして両親から娘が生まれないと孫に伝達されないので、ここで分断が起きてしまいます。そこで、核DNAを前述の次世代シーケンサーで解析するようになりました。2010年にネアンデルタール人の持つ全てのDNA解読に成功し、それ以来人類集団の成り立ちが活発に議論されるようになりました。ネアンデルタール人は1856年にドイツ、デュッセルドルフ郊外のネアンデル渓谷で発見され、その後ヨーロッパ各地とシベリアで化石が見つかっていて、約4万年前に絶滅したとされています。ネアンデルタール人のDNA解読により、アジア人とヨーロッパ人において約2.5%のネアンデルタール人由来のDNAが混入していることが明らかとなりました。さらにサハラ以南のアフリカ人にはこの混入を認めないでの、ホモ・サピエンスが約6万年前に出アフリカを成した後、初期拡散の過程でネアンデルタール人と交雑したシナリオが考えられています。2010年にシベリアのデニソワ洞窟で出土した指の骨と臼歯のDNAを分析したところ、ネアンデルタール人ともホモ・サピエンスとも異なる別の人類であることが分かり、デニソワ人と名付けられました。このデニソワ洞窟にはネアンデルタール人ばかりかホモ・サピエンスが作った遺物も残っていて、少なくとも3種の人類に利用されていたことから、交雑の事実の証拠といえるでしょう。なお、交雑の時期や回数などは様々な仮説が提出され、まだまだ定説に至っていません。
 <クリスパー・キャス9>
 ここで以前にもblogにまとめた遺伝子編集の新技術が登場します。ネアンデルタール人とデニソワ人の全ゲノム配列をホモ・サピエンスのものと照合すると、異なる遺伝子が61個見つかりました。その中で神経の発生を調節する遺伝子NOVA1に注目すると、ホモ・サピエンスのNOVA1タンパク質の200番目のアミノ酸がバリンであるのに対して、ネアンデルタール人とデニソワ人はイソロイシンでした。そこでクリスパー・キャス9の技術でホモ・サピエンスのNOVA1遺伝子をイソロイシン型に改変し、iPS細胞に組み入れてみました。そして細胞を培養すると現代人より凹凸が多く、シナプスが少ない脳に似た組織(脳皮質オルガノイド)が育ちました。このオルガノイドの電気的特性を調べたところ、神経活動量は多いものの同調性は低く、ホモ・サピエンスの脳のほうがネアンデルタール人よりも機能的に優れていることが分かりました。
 人類の起源はどこから始まり、どのような方向へ進んでいくのか、人類は地球上に長く繫栄できるのか、それとも新しい人類が誕生するのか、誕生するなら一体いつでホモ・サピエンスは共存可能なのか?初期のSF小説のテーマのように多くの疑問がわきますが、これらを空想ではなく科学的に推論できる時代になりました。
 本稿は落合陽一氏と篠田謙一先生のYou Tubeの対談に啓発され、篠田先生の名著「人類の起源 中公新書」を読みアレンジしたものです。
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2025年10月13日

毎日の排尿はスムーズですか

 先日、泌尿器のお話を聞きました、講師は東北大学名誉教授の荒井陽一先生です。興味深い内容でしたので、まとめてみました。排尿とは膀胱における蓄尿と排尿からなっていて、腎臓で連続的に作られる尿を膀胱で溜めて意図すればいつでも排尿できる、つまりダムの排水のような仕組みです。そして、仮に人生80年、1日5回(1回20秒)の排尿があるとすれば、一生のうちに14万6千回排尿し、800時間を費やしますが、それは人生の0.1%に過ぎません。つまり、99.9%を占める蓄尿が上手くいかないことがより重大な障害なのです。男性でトイレで尿が出るまで時間がかかる人がいますが、頻繁に尿意が出て、トイレに急がないと漏れてしまう、という蓄尿の障害がみられるようなら心配です。
 ここで、蓄尿のメカニズムを説明すると、腎臓で作られる尿は60cc/時のペースで尿管を通って絶えず膀胱へ流れていきます。ちなみに幼児では30cc/時、乳児では15cc/時の時間尿になっています。その尿が膀胱に150cc溜まると尿意を感じますが、そこを過ぎると一旦尿意が消失します。そして300ccに達すると再び尿意が出現します。最初がイエローカードで次がレッドカードのようなもので、この尿量として150cc、時間にして2〜3時間の遊びが絶妙な機能となっています。もし、地下鉄に乗っている時、会議の真っ最中、食事を楽しんでいる時に尿意が訪れても、十分な余裕があるわけです。しかし、この遊びが失われ膀胱が暴走してしまったら通常の社会生活は送れない状態になります。
 このような症状を起こす疾患が過活動膀胱で、英語ではoveractive bladder(OAB)と称します。40歳以上の日本人の有病率は13.8%、推定1080万人の患者数がいます。その半数には尿漏れがあると考えられ、身近で切実な問題です。OABの診断には次のような質問があります。1.尿をする回数が多い、2.急に尿がしたくなって、我慢が難しいことがある、3.我慢できずに尿を漏らすことがある、これらの一つでも該当すればOABが疑われます。
 OABの背景には様々な原因疾患があり、脳脊髄の障害による神経因生のものより、非神経因性のものが80%以上を占めています。非神経因性の内訳としては尿道の閉塞(前立腺肥大症など)、加齢、骨盤内筋肉の脆弱化、生活習慣病などがあります。中でも生活習慣病(高血圧症、糖尿病、高脂血症)との関連が深く、動脈硬化が進み膀胱を栄養する動脈の血流量が低下すると、膀胱虚血を招きOAB発症につながります。膀胱は蓄尿の際に弛緩し、排尿時には機敏に収縮する運動をしますが、このメカニズムは単純なものではありません。膀胱体部、膀胱頸部、前立腺、尿道からなる下部尿路は3種類の神経支配、つまりβアドレナリン作動性神経、コリン作動性神経、αアドレナリン作動性神経により複合的に制御されています。
 OABの治療薬には抗コリン薬、βアドレナリン作動薬が使用されていますが、抗コリン薬は口内乾燥や便秘などの副作用があります。現在、膀胱選択制の高い抗コリン薬が開発され副作用は抑制されていますが、抗コリン系薬剤というのは他の疾患でも幅広く使われていて、その累積投与が認知症発症のリスクとなっています。そこで、このような副作用のないβアドレナリン作動薬に目をうつすと、βアドレナリンの受容体には3つのサブタイプがあります。そのうちβ3アドレナリン受容体(β3-AR)が膀胱平滑筋の弛緩に関わっています。1999年に福島医大教授(当時)の山口脩先生がヒト膀胱でこのβ3-ARが非常に優位であることを世界で初めて報告しました。それまで、ラット、ウサギ、イヌ、ブタなどの膀胱では分からなかったヒト膀胱のサブタイプの特性を、がんで摘出された膀胱を直接調べて発見したそうです。この報告をもとに開発されたβ3作動薬は、蓄尿時の弛緩に有効な上に排尿時の収縮を妨げず、同時に心・血管・気道系への影響が少ない長所をもち、近年第一選択の薬剤として使用されています。病院でもらうベタニス、べオーバがそれで、製品名からして「β」が強く意識されていますね。OABの治療は膀胱の弛緩・収縮を本来の機能へ戻してあげることですが、かかりつけ医で治療を受けていても症状が改善せず、特に夜間頻尿に悩まされるようであれば、泌尿器科での詳しい検査を受けて欲しいと、荒井先生は要望していました。
posted by ナカバヤシジビカ at 22:20| Comment(0) | 新着情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする