2020年01月24日

小児急性中耳炎の up to date

 私たち耳鼻咽喉科医が毎日診ている子どもの急性中耳炎には治療ガイドラインがあります。臨床症状や鼓膜所見のスコアリングによる重症度判定を行い、治療アルゴリズムに応じた処置・薬剤選択を行なうことが基本となっています。近年、肺炎球菌ワクチンの普及や有効な抗菌薬の登場により難治性急性中耳炎は減ってきた印象がありますが、治療困難例が無くなったわけではありません。

 急性中耳炎の難治化には、遷延化(再燃)と反復化(再発)があります。遷延化は抗菌薬で改善しても薬を止めると症状が出てくる場合で、反復化は一度治るのですが再発を繰り返す場合を指します。難治化にはインフルエンザ菌が原因となることが多いです。二つに分けて分析すると、遷延化ではその耐性菌であるBLNARの割合が高くなるので、抗菌薬はBLNARに有効な薬剤を選択します。反復化では迷わずBLNARをターゲットにした強い薬剤を用い同時に鼓膜切開を施行します。臨床では反復化は少数で遷延化が多くを占めます。難治化の原因には初回治療で充分量の抗菌薬が使用されず、結果として薬剤耐性化を許してしまったことが考えられます。周知のように抗菌薬は耐性菌の出現と絶えず競争しているのですが、最近ではBLPACRというアモキシシリン(PC系抗菌薬)とクラブラン酸(PCの効果を高める物質)の両方に抵抗性の耐性菌が増加しつつあります。現在のような抗菌薬の開発が頭打ちの状況では、今ある戦力で将来の耐性菌の出現に対応できるのか大いに不安であり、今後の治療に危機感が持たれています。

 薬剤耐性の問題には子どもの特性や社会・生活環境が影響していることが指摘されています。一つは免疫能の問題です。生直後は母体からの移行抗体による受動免疫で感染に対する抵抗性が強いですが、生後数ヶ月から2・3歳までは受動免疫が減衰するのに能動免疫が未熟であるため、感染しやすい状態です。この弱い時期は急性中耳炎の好発年齢であるので、お母さん達から「中耳炎はクセになるのですか?」「このまま中耳炎が治らないことがありますか?」という質問が時々出ます。しかし実際には少なくとも4歳になれば明るい未来が待っているので、中耳炎との付き合いは「焦らず根気よく」がコツです。

 もう一つの問題は、集団保育です。日本では共働きが標準的な就労形態となり、保育所等を利用する児童は増加する一方です。厚労省発表の保育所等利用率の推移をみると、1・2歳児の利用率はH24に33.0%だったのがH31には48.1%に急上昇しています。H31の時点で3歳未満の保育児童が110万人もいます。平均月齢19ヶ月、57名の反復性中耳炎の小児の保育状況を調べた伊藤真人先生(自治医大小児耳鼻咽喉科教授)の調査によれば、患児の75%が保育園児で25%が家庭保育児でした。家庭保育児でも兄弟が保育園に通園している場合がほとんどであり、96.5%の患児が保育園と関わりがありました。特に0〜2歳児のクラスの過密状態は、病原菌の暴露の観点から問題であり、集団保育自体がハイリスクファクターと考えられています。

 以上からまとめると、小児急性中耳炎に対してはリスクファクターを念頭に置いた治療方針を策定し難治化を防止することが、子どもと親への負担を減らす良策といえます。


posted by ナカバヤシジビカ at 07:09| Comment(0) | 新着情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする