2019年01月31日

霞ヶ関

先日、東京・霞が関ビルで開催された耳鼻咽喉科領域の福祉医療全国会議に宮城県担当者として本年も出席しました。そこで、厚労省保険局長の樽見英樹氏による日本の社会保障改革に関する講演を聴く機会がありました。特に現在開催されている通常国会で提出予定の法案に新しいアイデアが盛り込まれていました。
まず前提として2025年までに団塊世代が後期高齢者に到達し、高齢者の急増とそれと反対に生産年齢人口(15〜64歳)が急減するという社会が迫ってきています。国民的な議論の下でこれまで進めてきた給付と負担の見直しにより社会保障全体の持続を図り、この重大局面に対応した政策課題を踏まえた総合的改革が絶対的に必要です。さて法案である「保険医療制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律案(仮称)」の要点です。
1.オンライン資格確認の導入
 現在保険証番号は家族で同じですが、これを個人単位化し保険者である支払基金・国保のマイナンバーとリンクします。医療機関の窓口で保険証が使用可能かすぐに判明し、後からの照会などの作業が不要となります。これ医療機関のメリットですが、マイナンバーカードに決済機能をつけて保険証を持ち歩く必要がなくすことも検討していて、患者さんの受付・会計手続きが簡略化されることになります。
2.オンライン資格確認や電子カルテ等の普及のための医療情報化支援基金の創設
 上記の改革を推進するために純粋に消費税財源の基金として300億円を拠出します。
3.NDB(医療保険レセプト情報等のデータベース)、介護DB(介護保険レセプト情報のデータベース)の連結解析等
 NDBと介護DBの連結解析を可能とする。現在でも名前を暗号化(匿名化)した9年分の全てのデータを国は保持しています。これらのデータベースを公益目的で研究機関に提供する規定の整備を行います。例えば、レセプト情報の分析から新薬開発に必要な情報提供が可能となります。
4.高齢者の保険事業と介護予防の一体的な実施等
 75歳以上の高齢者に対する保険事業を市町村が介護保険の地域支援事業と一体的に実施できるように、同一人の医療・健診・介護情報を一括管理します。
5.被扶養者等の要件の見直し、国民健康保険の資格管理の適正化
 近年外国人の保険診療が問題となっています。日本で就労中の外国人の家族が実際には母国に居住していても、家族として医療給付するのは不合理という考え方から、例外を設けつつも家族も国内居住を原則とします。

他にもありますが、以上が改正の概要となります。今回識者から注目されているところは、医療費自己負担について全く手を加えず現状維持にしたことで、いつも論争の的になっていたテーマでしたので過去に前例がないそうです。

講演の最後の方で、健康寿命の延伸により高齢者の多様な就労・社会参画を促進し、社会全体の活力維持を目指すと述べていました。その実現には見ること、聞くこと、触れてわかること、つまり感覚器医療の充実が必要条件であることを強調して結びとしていました。樽見氏は広範囲で難しい内容を時間内に圧縮してまとめていました。講演のスライドは首相官邸で閣僚説明用に使用されたものも含まれています。閣僚用は時間の関係で10枚程に収めるよう制限されているので、文字は細かくグラフはギッシリ、勢い早口の説明となり、真剣に聴いていてもドンドン置いていかれる感じでした。樽見氏自身は人間味があり熱心な官僚なのですが…。思うのは閣僚の方々の感覚器の健康が良好かつ注意力が高い状態で、樽見氏の法案説明が大脳にインプットされているかどうかですね。

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2019年01月21日

2019スギ花粉の飛散動向

今年もスギ花粉症の季節がやってきます。スギ花粉の飛散数や飛散開始日などが気になる頃と思います。昨年の仙台市のスギ花粉は1983年の東北大学の定点観測が始まって以来、最大の10,544個もの超大量飛散でした。1日で1昨年の総飛散数に匹敵する花粉が飛んだ日もあり、市内の耳鼻咽喉科は一時パンク状態に至りました。今年はそのような飛散数ではありませんが、花芽の着花状況や作夏の気象条件を考慮する5,000個以上の大量飛散になる可能性が高く、全く油断はできません。宮城のスギ林は、成熟期に到達して毎年多くの花芽が着花するように変化してきています。また、暖冬のため飛散開始日は例年より早く2月中旬頃になるかもしれません。今年も早めに薬剤を確保し、花粉情報のキャッチとセルフケアに努めて4月までのスギ花粉シーズンを乗り切りましょう。
写真は泉区大沢にあるホームセンタームサシ裏手のスギ林です。赤茶色に見えるくらい花芽の生育が進んでいます。
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2019年01月13日

カゼと抗菌薬

近年、厚労省の指導で抗菌薬(抗生物質)の使用に釘を刺されています。使用を最小限に抑え耐性菌出現を回避し、開発に多大な時間と労力のかかる抗菌薬がこの先長持ちするようにという世界的な戦略です。もっともなことではあります。カゼはウイルス感染なので、抗菌薬を使用するのは不適切であるという意識が臨床医に定着してきました。しかし、ウイルスでダメージを受けた上気道粘膜は細菌感染を合併している場合もあり、症状や経過から必要と判断したら、抗菌薬の使用をためらうのは良くないでしょう。耳鼻咽喉科医としては急性副鼻腔炎、急性咽頭炎、扁桃周囲炎、急性喉頭炎、急性中耳炎などの発症には日常診療において常に注意を払うところです。「病院で風邪と言われて薬をもらったが、顔が痛くなってきた」という受診パターンが、耳鼻咽喉科の開業医仲間では増えているという認識です。この訴えは急性副鼻腔炎でしょうね。

さて、その際使用する抗菌薬には特徴に合わせた有効な使用方法が理論化されています。服薬した抗菌薬は、腸で吸収され血液中に入り全身に分布し、その後肝臓で代謝されたり、腎臓から尿中に排泄されたりして作用を失います。この時、腸からの吸収が多ければ薬の作用大、ゆっくり代謝・排泄されれば作用大、などという体内の薬の量考える指標として薬物動態学(PK)があります。また、上気道粘膜、心臓、肺、消化管、髄液といった目的の感染部位に薬が作用しているか考える指標として、薬力学(PD)があります。このPK/PD理論にもとづいて抗菌薬の作用の仕組みを説明します。

PKではCmax(最高血中濃度)とAUC(血中濃度−時間曲線下面積)の2つのパラメータがあります。Cmaxとは抗菌薬を投与して急速に血中濃度が上昇するピークなので、薬の作用も最大と考えられます。薬を投与しても血中濃度が上がらなければ細菌増殖を抑制できないので、体内に薬の総量を表す指標がAUCです。AUCが高いほど多くの薬が体内に入り利用されたことを意味します。次にPDではMIC(最小発育阻止濃度)というパラメータがあります。MICは薬を投与した時に細菌の増殖を抑制できる最小濃度を指します。MICが低いほど薬の作用が強力といえますし、MICを超えていなければ効果不足と判断できます。この考えからMICを超えていること、つまりMICを超えて推移した時間がどれだけあるかをパラメータにしたのがtime above MICです。ここでもう一つ追加があります。血中濃度がMICより下がると細菌は直ちに勢いを盛り返すのでしょうか。実際にはMIC以下でも細菌増殖の抑制効果は続き、これをPAE(post antibiotic effect)と呼びます。PAEは薬により短かったり長かったりするので、なかなか薬の選択・用法は単純なものではないです。
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抗菌薬には濃度依存性と時間依存性の2種類があります。濃度依存性では一時的にでも血中濃度が高いほど抗菌作用を示すので1回投与量を増やし、その代わり投与回数を減らします。時間経過によりMIC以下になってもPAEにより 細菌増殖は抑制されているので問題ありません。時間依存性ではMICよりも高い血中濃度を維持することが大切なので、1回投与量を最小限として、その代わり投与回数を増やすのが一般的です。耳鼻咽喉科領域の感染症でよく使われるペニシリン系やセフェム系の抗生物質は時間依存性抗菌薬に属します。当然ながら勝手に投与回数を減らすことは効果を弱めるばかりか、耐性菌を出現させる恐れがあります。問題なのは集団保育の乳幼児の場合です。保育園の業務形態から、昼食後の短い時間に各園児に間違いなく服薬させるのは大変なことので各家庭での責任となります。そうすると、朝夕の1日2回処方にならざる得ず、不適切な用法になってしまいます。咳や鼻汁を抑える混合薬は、1日2回処方でも何とかなりますが、抗菌薬はそうはいきません。子供を保育園から引き取ってすぐと就眠前に服薬させる、という変則的な1日3回処方も考慮しました。しかしこれらの抗生物質は胃酸で分解されるので、食後胃酸が薄まった時でないとよろしくないです。結局しわ寄せは子供たちにいきますので、この問題は何とか解決されないものかと常々思っています。

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